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疑問73 情報リテラシーと忘却曲線
「忘却曲線」とは、エビングハウスという、100年前に他界したオッサンによって導かれた曲線です。いろんな場面で引用され、簡単に言えば「人は覚えたものをどれくらい忘れるか」を示しています。

20分後 42パーセントを忘れる。
60分後 56パーセントを忘れる。
1日後 74パーセントを忘れる。
1週間後 77パーセントを忘れる。

「ほら、こんなに速く忘れるってことは、今日覚えた100の単語のうち70以上は明日までに忘れるんですよ。だから明日が来る前に復習してね」といった具合に引用されることもあるでしょう。

こういうデータや著名人による発言、新聞に掲載された情報などを見たら、すぐに信じる人がいますが、何でも信じるようでは損することはあっても得することはあまりありません。情報というものは、特に新聞やテレビなどメディアによって流される場合はバイアスがかかっていることが多いからです。もちろん、バイアスがかかっていない場合もあるでしょう。ですから、真実がどうであれ、情報を適切に読み取ろうとする姿勢や、それができる能力は重要です。特に、いい加減な情報の宝庫であるインターネットが普及した今の時代には必須と言える能力です。この能力は情報リテラシーと呼ばれます。

情報リテラシーの向上には訓練が必要です。誰にでも練習できることですが、普段から意識的にやっている人は少ないと思われます。

最も簡単な訓練方法は「自分が目にした情報を疑ってみる」ことです。たとえ信じたいことだとしても、とりあえず疑ってみる。疑う方法はいろいろあります。

最初のステップは「事実と意見」を分離することです。

事実の部分に対しては「前提は何か」「証拠はあるのか」「信憑性があるのか」という視点で検証し、さらに「自分に当てはまるのか」という自問自答をすることが大事でしょう。

意見を疑う方法は「主張や結論」「証拠や理由」「論拠」を分離することから始まります。

「ほら、こんなに速く忘れるってことは、今日覚えた100の単語のうち70以上は明日までに忘れるんですよ。だから明日が来る前に復習してね」という発言は「意見」です。結論は「復習してね」ですが、その前に「70以上を忘れる」という部分も何らかの理由で導かれる結論と言えます。

証拠:君たちは、今日、100の単語を覚えた
論拠:人は覚えたことの70パーセントを1日後に忘れている(エビが立証)
主張:今日覚えた単語の70パーセントを忘れる(だから復習しろ)

疑ってみます。まずは、「事実」から。忘却曲線の「前提」はこういうものです。エビおじさんがしたことは「覚えたものをどれくらい忘れるか」という実験です。覚えたものは「子音・母音・子音から成り立つ意味のない音節」です。dekやkovなどでしょう。そういうものを記憶して、経過時間と再生率を調べました。証拠は、世の中に出回っているグラフがあります。信憑性は、きっとあるのでしょう。エビおじさんは心理学者ですので、それなりに妥当な方法で実験を行ったでしょうし、実験結果を捏造した可能性は低いと思われます。それに、彼がウソつきジイサンだったとしたら、死後100年が経過してから引用されることはないでしょう、きっと。「事実」の部分については、あまり疑う余地はなさそうです。

次に「意見」です。エビおじさんの実験では、dekやkovなど無意味なものが覚えられました。「君たちは、今日、100の単語を覚えた」という証拠自体は正しくても、エビおじさんの実験内容を当てはめることが妥当とは言えません。なぜなら「単語を覚える」とは、無意味な3文字の音節を覚えることではなく、一般的に言えば「ある言葉と、別の言語におけるその言葉の近似値を覚える」ことだからです。エビちゃんの実験を論拠として使うことが妥当である、という積極的な証明がない限りは、証拠から主張を導くことはできないのです(ただし、個人的な経験から、ある言葉と、別の言語におけるその言葉の近似値を覚える行為は、無意味な3文字の音節を覚えることに近いと判断していますので、ほかの覚え方と比較すれば効果の小さい行為だと思っています)。

信憑性が低い情報が氾濫する時代だからこそ、情報リテラシーは非常に重要です。ちゃんと自分の頭で考える訓練をしなければ、自分が望む、または必要とする情報を得ることができないどころか、有害な情報を取り込むことになります。

情報リテラシーに直接は関係ないことですが「論理を重んじる」ことが、その能力に間接的に影響します。

一般的に、日本人の使う日本語には論拠が足りないことが多いです。論拠とは「証拠と主張をつなぐもの」ですから、論理構造の根幹をなす部分です。論拠を明示しない発言が多い理由は、おそらく、日本の歴史や文化を考えると「言葉にしなくても互いに共有していること」が多かったからでしょう。ですから、目の前にある証拠だけを根拠に結論を導いても他人から疑われることが少なかったのだと思われます。「1を聞いて10を知る」という表現が存在することからも、そう察することができます。

ところが、そういう国は世界には少ないのが現実です。アメリカやドイツは極端に言えば「1を聞いて1を知る」文化ですから、伝えたいメッセージをすべて言葉に変えて伝えることが当たり前とされています。結果として、意見を述べたり、何かを主張する場合には、そのサポートとして証拠や理由、論拠を一緒に述べることが当たり前です。もちろん、すべての人がそうしているとは思いませんが、少なくともそれが「標準」なのです。「昨夜の映画どうだった」という、なんてことない質問に対しても、英語のネイティブスピーカーは、I liked it because ... と、結論と理由をセットで述べる傾向が強いですし、相手に「なぜ」という質問をすることは、ごく普通の行為であることは間違いありません。ロバート(ヒルキ先生)によれば、英語はspeaker-responsible languageですので、自分のメッセージを相手が理解しなければ、その責任は自分にあります。よって、自分が理解できないことがあれば、それについて相手に確認したり反論したりすることは当然のこととされます。むしろ、聞き手の義務とも言えるでしょう。

よって、日本人が英語を学び、英語を母国語とする人々とコミュニケーションをするならば「相手が理解しやすいように伝える」能力、そして自分が理解できないことについては「相手に質問したり反論したりする」能力も重要です。それらは「英語力」に内包されるべき力です。たまたま日本人の多くには論理や理由をあまり重んじないコミュニケーションをする傾向がありますので、英語を学びながら日本語でそれらの力を伸ばす訓練をすることが、結果として英語力の向上に役立つでしょう。そもそも日本語が下手なら、英語だけ上手になるという現象は想像しにくいですし。

comments(3) URL 2009.11.24 Tuesday └ TOEIC 疑問 勉強法TOP
Comment
結論としては日本語でもディベート及びディベート思考を学ぶことが英語学習に対しても効果があるということでしょうか?

 論理的思考能力は人として普遍的に必要かと思いますが(英語を学んでいてもいなくても)、田舎に住んでいると論理的に物事を考えようとすると、理屈っぽいと文句を言われることが多いです。(笑)
板井可都也 | 2009/11/25 10:42 AM
本日の記事は日本の英語教育の欠陥の本質をついたすばらしい内容だと思います。さすがです。わたしも常々同様のことを考えていました。(私は医師ですが日本の英語教育の方向性に大きな疑問を持っています)

日本人の英語教育においてまず重要なことは、仰るように英語コミュニケーションにおける基本的要素である筋の通った理論を構築できる能力を育てることであると思います。自分の意見を言う際に、なぜなのか、たとえば・・・をいえるように教育することが初等教育で必要だと思います。これは日本語でできるプロセスです。小学生に英語モドキを教えるよりは、この論理構成をしっかり教える(作文や討論などで)ことが先決で、これができれば、英語でものが言える基礎(下地)が身につくわけです。

情報リタラシーもまさに、論理の一貫性を常に意識するマインドを養うのに必要な要素ですね。ちなみに、右脳・左脳理論も真っ赤なうそです(pseudo-science)。戦前のロシアの解剖学者が言い始めたたわごとです。まあ、blissful ignorance ということもありますから、いちがいにすべてを疑えとはいえませんが、そういう方向性は重要ですね。新聞の記事はすべて記者が聞いた伝聞事項ですから、全部疑うべきですね。


英語の旅人 | 2009/11/25 12:37 PM
板井可都也さん、
英語であれ日本語であれディベートを通じて得られる力は日本人にとっての英語学習に非常に効果的であり、必要であるとすら思っています。ディベートそのものが必要だとは断言しませんが、代わりとなる、より優れた練習方法が思い当たりませんので、ベストだろうとは思います。おっしゃる通り、論理的な思考能力の重要性は普遍的なものだと思います。それが「重要である」とわざわざ言わなければならないのが残念なことです。本来は「当たり前」のことですから。

英語の旅人さん、
コメントをいただきありがとうございます。お書きくださったことに同意します。仮に英語と無縁のまま人生を過ごす人にとっても、社会で普通に生きていくためには論理は有益であり必須とも呼べるものだと思います。ましてや、英語教育においては言うまでもありません。
新聞の記事も、まさにその通りで、数少ない人が他人から聞いたことを文字にしたものですから、真実が書かれているという前提で読むのは間違いだと思います。実際に「自社のことが記事になった」経験がある人なら「こんな記事はうそだ。少なくとも大げさ過ぎる」と気づく機会があると思います。真実が99パーセントだとしても(ま、実際はもっと少ないでしょうが)、どれが真実なのか分からないという前提で接するべきだと思います。
前田 | 2009/11/25 9:09 PM









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