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疑問79 対象レベルとは何か
たいていのTOEIC対策書には「対象」が記載されています。表紙か裏表紙に記載されているでしょう。本に関して、そもそも「対象」とは何か、という疑問があります。なぜなら、ボクの経験においては「対象」を決めるのは著者ではなく版元だからです。この「決める」は「裏表紙にどう表記するか」を決めるという意味です。

しかしながら、著者は執筆の段階で、すでに「対象」や「想定読者像」を頭の中に描いています。少なくともボクの経験では、企画成立時点で、対象について版元と「だいたい合意」していますので、勝手に異なる読者像を描くことはしません。模擬試験は例外ですが。

つまり、コンテンツを作る著者にとっての「対象」と、実際に表紙や裏表紙に記載される「対象」は一致しない場合があるということです。著者にとっては「対象が狭いほど読者像をイメージしやすい」一方で、版元にとっては「対象は広い方がいいはず」だからです。それにより、「対象とは何か」という疑問が生まれるのです。この差が生まれる理由は、はっきりしています。

それは、両者の立場の違いに起因します。

著者は、おそらく一般的に言っても個人的に言っても、執筆段階で読者像をイメージして、その人に貢献するように書く努力をします。ある程度の幅を持った読者像ができている場合もありますが「コア」な像もあるものです。「Aさん、Bさん、Cさんを対象として想定しているけど、Bさんこそがメインの読者像だ」のように。別の言い方をすれば、コアとなる読者像を想定せずに書くのは難しいことです。「何を書き、何を捨てるか」を判断しにくくなるからです。

一方で、おそらく多くの版元は「なるべく多くの人が対象となる」ように、対象を表記しようとします。理由は、多くの人を対象にしているように見せることが販売に貢献するだろう、という考え方があるからです。事実を反映した考え方だとはボクは思っていませんが、それが現実に存在する思考回路です。結果として、TOEIC対策書であれば「500点以上」とか「730点を目標にしている方」などのように、著者が想定していた「コア」な方より、保有スコアが低い方を含む数値が裏表紙に登場することがあります。

「人前で上手に話す技術」とか「サラリーマンで年収5000万円」みたいな本であれば、対象が「ビジネスマン全員」でも妥当だと思いますし、英語教師やアナウンサーになりたい大学生がそれらの本を買う可能性も大いにあります。そして、実際に有益な情報を得ることができる場合も多いでしょう。

でも、TOEICにはスコアという数字があり、「上下関係」もあります。300より400が、800より900がスコアとしては「上」であり、そして、ほぼすべての受験者は、スコアが「下から上に変化すること」を希望しているでしょう。よって、ある本の、表紙や裏表紙に記載される「対象」が「なるべく低いスコアから、なるべく高いスコアの間にいる人」になっていれば「多くの人に役立ちますよ」という、版元の意図が反映されているわけです。言い換えると、「多くの人に買って欲しい」という欲の表れです。欲を持つのは悪くないですが、対象レベルを幅広く表記するという手法が効果的かどうかは疑問です。

ボクの本を例にして「対象」のズレについて解説します。

『5日で攻略 新TOEICテスト730点!』では、執筆段階でのイメージ通りの表記になっています。「対象レベル」は「650点〜」です。『直前の技術』の「対象レベル」は「400点〜」と記載されています。これは「400点以上であれば、誰でも対象です」を意味するのでしょうが、執筆陣営は、そんなイメージは持っていませんでした。実際に405点の方が『直前の技術』を使えば、きっと理解できない部分や、使えない「技術」が多くて困ってしまうかも、と感じています。しかしながら、その人が英語が好きで努力家であれば、パートによっては非常に有益だと思いますし、英語力が伸びれば、例えば1年後に、別のパートもスイスイ理解できるようになるかも知れません。また、類書を使って技術をせっせと磨いたことのある、受験経験が豊富な600点のAさんと、大学1年生で、入学直後にTOEICのことを知らないままIPテストを受験して600点だったBさんを比べれば、「直前の技術」はBさんに大きく貢献し、Aさんにはあまり貢献しないだろうとも想像できます。「対象レベル」を保有スコアで表記することに無理があるわけです。『直前の技術』の場合は。

2010年夏に出版される本のデザインを入手したので「対象」を見ました。

990_cover_target
この画像は「修正前」です。このまま刊行されるわけではありません。

「対象レベル」が「800点〜」となっています。著者3名は、現状で800点の人を想定しながら書いたわけではありません。「コアではない」どころか「想定外」です。この本の中身を世界中の誰よりも知っている、担当編集者に意見を聞いてみたところ、対象レベルは900点または850点以上だろうとおっしゃっていました。スコアで表現するならば、確かにその通りだと思います。しかしながら、著者や1人の編集者の考えだけで表記が決まるわけではないのが現実です。

その理由は、すでに述べたように「なるべく多くの人が対象となる」ように記載することが、販売に貢献するだろう、という考えが支配的だからです。この本に関する限りは間違った判断だと想像していますが、実際にどうなるかは現実を見てみないと分かりませんし、現実を見ても分析不可能でしょう。このように考えると、そもそも「対象とは何か」という疑問への答えは存在するかどうかすら怪しいです。何をもって、何を答えだと呼べるのでしょう。仮に、著者が考えることが答えだとするならば、こうなります。

リスニングセクション担当のボクが想定する読者像は2パターンです。

まず「すでに、900点や950点前後のスコアを数回取得したことのある方」で、990点を取得したい方です。あとは、「現状のスコアがどうであれ、いずれ990点を取ることを意識していて、英語学習に注力されている方」です。後者には「現状700点、英語学習は好き。TOEICに没頭するつもりはない」ような方も含まれます。なぜなら、英語自体の学習法についても多くのページを割いたからです。

このような方が「対象」です。いずれ、関連ページにも掲載します。

なお、上の画像では、目標レベルが「990点〜」となっています。「〜」がある理由は「1200点を取る力を養成して、990点を取る」が本のコンセプトだからです。

と思ったのですが、単なるミスだったようです。実際には削除されます。
残念です。

comments(4) URL 2010.06.26 Saturday └ TOEIC 疑問 本TOP
Comment
 商品を売る場合営業は大風呂敷を掲げるものですし、本を売る立場からは面白くない本でも面白いと宣伝し、読者対象を広げようとするものでしょうから仕方無いのではないかと思います。

 むしろ作者の方から積極的に購買対象を狭めようとしている(ように見える)、お客さん思いの前田先生やTEXさんの方が珍しいのではないでしょうか?

 市場戦略から、お客さんを絞った方が良い結果が出る場合もあるのではと思いますが。

 個人的には英語の参考書でもミステリやSFのようにしっかりした書評があればと願っています。TOEICについては今のところ一部のTOEICブロガーさんの本の紹介が参考になるくらいですので。
板井可都也 | 2010/06/27 12:31 PM
板井可都也さん、
コメントありがとうございます。確かに我々が「対象を狭めよう」としているのは事実ですし、そのようなことをする著者は少ないでしょうね。
一般的な商品開発とマーケティング手法の観点で言えば、市場が大きく成長し、成熟に近づき(または成熟し)、競合が多ければ多いほど商品の特性が細分化されます。食品や家電製品を見れば明らかですね。TOEICの本について言えば、おそらく成長しきって成熟段階にあると言えそうです。ですので、ボクの個人的な感覚では、この本が990点目標にしていて、かつ、表紙でそう言う以上は、対象レベルを広げるのは単なるミスにしか思えません。不誠実でもあると思っています。著者として、それを決定する権限がないのが残念です。せめて、ブログなどを通じて、このような情報を得ていただける方々には著者陣営が思っていることをお伝えできればいいな、と思っています。
前田 | 2010/06/27 11:27 PM
恐らく初めて書き込みさせていただきます。

"A Road to 990"、非常に楽しみにしています。対談も聴かせていただきました。あまりTOEIC 対策本に詳しくないのですが、今までにない英語学習書になるのではないかとワクワクしています。

「目標レベル:990点〜」にニヤリとしてしまったのですが、実際には削除されるのですね。やはり残念です。
渥美クライマックス | 2010/06/28 3:05 PM
渥美クライマックスさん、
コメントありがとうございました。また、あの対談も聞いてくださったようで、ありがとうございます。ユニークな本ですので楽しみにしてください。
95年の、あのときボランティア活動をされていたのですね。ボクは六甲に住んでいましたので、3カ月くらいですが六甲小学校でボランティア活動をしました。様々な光景を目にして、そして、自らも尋常ではない体験をしたことが、その後の人生に大きく影響しています。
前田 | 2010/06/28 5:59 PM









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